取材は久しぶりでした。
・ミュージシャン・プロ格闘家・もと覚せい剤中毒者・ソープランド経営者・SM嬢・形成外科医・マグロ卸売り業者・ウリ専ボーイ・美容師・美容学校経営者・性転換者・ニューハーフ・中学校教員・旅館仲居さん・プロカメラマン・やけど重症患者さん・脊髄損傷者さん・スポーツトレーナー‥‥andmore
デビュー以来20年以上、とにかく今までたくさんの職業に方々に取材をさせていただき、マンガを作ってきました。
私の知らないことをマンガにするのに、取材は欠かせません。本を読んだだけでは絶対得られないエピソードが聞けるので、私は取材が大好きでした。
しかし…最近はめっきり取材をさせてもらえませんでした。
取材どころか、この数年、コロナのせいもあって、マンガ編集者、インタビュイー、仕事に関わる人と直接会う打ち合わせは皆無で対面での会話自体が、まったく出来なかったのです!
よくてズーム会議。直接会ったこともない人と、メール打ち合わせだけで仕事をしたこともあります。
出版社の編集さんにも、メールだけで営業して、メールだけで断られ、完結してしまった仕事さえありました。とんだ時代になったもんだ。と嘆いても仕事は進まない。
なので、めげずに取材交渉は粘り強く続ける私。
すでに数件、依頼をコロナを理由に断られたけど、取材申し込みに返事すらくれない団体もあったけど、そんな中、「いいよ!」と快諾してくださったのが、フリーライターで、ノンフィクション作家でもある小野一光さんでした。
最近では、ネットニュースやネット記事で、世間を騒がせた殺人事件や、フーゾク関連のライティングで小野さんの記事を目にすることも多いので、ご存じの方もいらっしゃるかと思います。
私と小野さんの出会いは、20年くらい前に、「少女A」とか「わたしのからだ、わたしのねだん」というマンガ作品を描くにあたって、フーゾクや援助交際(当時はこう呼んでた。いまならパパ活)にお詳しい小野さんに取材をしたのが最初で、その当時は「なんでも知ってて、話がものすごく面白いおじさんだなあ~」という印象でした。
その当時の取材はとても楽しくて、非常に参考になりました。私の漫画は、おかげさまでとても濃い内容のものに仕上がりました。満足しています。
ただそれっきり、小野さんとお会いする機会もなく年月は過ぎていきました。
私はその間も、小野さんの著書などをいくつか読んで、「お元気そうだ、著作も大変面白いし興味深い。いつかまたお話したい」ともくろんでいたのでありました。
とくにここ数年は、日本中を騒がせた犯罪事件につよく惹かれ、調べたり考察するのが趣味みたいにもなっていたので、まさに、多くの犯罪者を長年取材され、対峙されてきた小野さんの著書が心に響いていました。
「家族喰い」「連続殺人犯」「人殺しの論理」すべて読みごたえがあり、重厚な内容です。
なので、小野さんには聞いてみたいことが山積みで、私はまるで長年会っていなかった恋人に会えるかのようなウキウキした気持ちで、取材の約束の日までドキドキ過ごしておりました。
↑小野さんの著作の一部
駅前の昔ながらの喫茶店に、待ち合わせをして、そのままお話を伺いました。
「本日はありがとうございます!お元気でいらっしゃいましたか?」
「今は元気になりましたが、昨年病気をして、入院手術を経験しました。5か月前も、東北に取材中に具合が悪くなり、地元の病院に救急搬送され、入院と検査の日々でした。」
小野さんはもともと呼吸器に持病があり、コロナに感染すると危ない、と医者から言われているそうで、さらに昨年それとは別の新たな内臓の病気も見つかったそうです。
そちらは完治されたようで幸いです。
「コロナ禍に見舞われた世の中になっても、手術を要する病が発覚しても、基本的には大きな心の変化や価値観が変わったりすることはないですね、ぼくは運命論者なので、死ぬときは死ぬし、助かるときは助かる、とどっしり構えています。」と小野さん。
とくに、日本中がコロナで閉塞していても、今までの仕事のやり方やスタンスは変わらなかったそうです。特に不自由も感じていないとか。スゴイ!
私は、取材しにくい、編集さんやスタッフさんと会えない、とフラストレーションMAXだったというのに!
「コロナ禍が2年以上続き、世の中の価値観が大きく変化したと思いますが、ワクチンがいきわたり、今後世界は2年前までの同じ環境に、また戻ると思いますか?」と聞いてみた。
「今回のパンデミックは、まさに分断の時代だと思います。世界の価値観を大きく分断した。」
都市部と地方、ワクチンを打つ派とワクチン反対派、テレワーク推奨派と保守派、時代の変化についていき柔軟に対応できる側とそうでない派、などなど。たしかに、飲食店やライブハウス、コロナが起こって株価が上昇した企業と廃業に追いやられた職種…
まさに世の中の人間の考え方や生活スタイルは、大きく分断されてしまったと納得できました。
小野さんは言います。
「ただアフターコロナといっても、今までの生活スタイルや価値観を大きく変える必要はないんじゃないか。それによるストレスで、人生が損なわれることは避けるべきだと僕は思います。」
なるほど、参考になります。
ムリして時代の流れについていこうとせず、自分は自分、なるようになる、というどっしりした気持ちでいると、不安も和らぎそうですね。
世間話はこの辺にして、本格的に小野さんの「フリーライター、ノンフィクションライター」というお仕事について聞いていくことにします。
「小野さんの著書といえば、連続殺人犯や死刑囚との対話、風俗嬢といったタイトルがずらっと並び、世間を騒がせた凶悪犯罪などを多く取材されていますが、もともとそういう「凶悪犯罪」などに強く惹かれ、専門カテゴリーのライターさんになられたのですか?」
「違います。フリーライターという職業には2種類あり、グルメ、スポーツ、音楽ととにかくジャンル問わずなんでも取材して仕事をこなすなんでも屋ライターと、ぼくのように専門分野を多く請け負うタイプの専門性のあるライターがいます。僕は、フリーライターなので、クライアントから依頼が来た仕事をこなしていくうちに、犯罪や風俗といったテーマの仕事が評価され、自然とそれらの依頼が多くなっていきました。」
「そうなんですね!ではご自身が惹かれて、この事件を連載記事にしたいと提案していくのではなく、オファーが来て、それを取材していく、というスタイルの中で、専門性が出来上がっていったということですね。もうかなり長いことご活躍されていますけど、このお仕事を天職だと思われますか?」
「天職、とまではいかないかもしれないが、自然とそうなっていったという感じです。ライターさんには取材が好きで続けているタイプと、取材を原稿に書くのが好きなタイプがいると思うんですけど、自分は原稿書くのが好きですね。ほかの犯罪系ライターと比較して強みがあるとしたら、自分はそこかなと。」
なるほど、われわれ漫画家にも当てはめるとすれば、私は原稿を描くよりも、こういった取材をしてストーリーを作るほうが好きなので、小野さんとは違って前者の方かもしれないなと思いました。
さて、世の中のヒット作コンテンツの多くで、実在の事件や犯罪者をモデルにしている場合が多いですが、実際に実物の犯罪者(死刑囚)と直に対面し、取材をされてきた小野さんからしたら、そういった「事件のエンターテイメント化」をどう感じておられるのでしょうか?
どうしても、聞きたくて聞いてみたいと思いました。
私は一読者・ファンとして、「闇金ウシジマくん」や、小林勇貴監督の映画「全員死刑」などが大好きなのです。
ウシジマくんには2002年の北九州で起きた松永太死刑囚の起こした監禁殺人事件がモデルにされていたり、「全員死刑」には大牟田4人殺害事件を起こした死刑囚一家、北村ファミリーを題材にしています。
他にも「冷たい熱帯魚」という映画は、埼玉の愛犬家殺人事件をモチーフにした壮大なクライムサスペンス作品として評価が高いもので、エンタメ作品としてはとても面白いです。
小野さんは全国の拘置所に足しげく面会に通い、彼ら死刑囚にち密なインタビューを試み、犯罪の真相に迫るスリリングな著作を発表されています。文字に起こせず公表できないような交流もあったと思います。
そんな「裏事情まで知り尽くし、本人をリアルに知っている」小野さんは、事件を面白おかしく脚色されたり美化されてしまっている殺人犯のコンテンツをどうとらえているのでしょうか?
後半へ続く
・ミュージシャン・プロ格闘家・もと覚せい剤中毒者・ソープランド経営者・SM嬢・形成外科医・マグロ卸売り業者・ウリ専ボーイ・美容師・美容学校経営者・性転換者・ニューハーフ・中学校教員・旅館仲居さん・プロカメラマン・やけど重症患者さん・脊髄損傷者さん・スポーツトレーナー‥‥andmore
デビュー以来20年以上、とにかく今までたくさんの職業に方々に取材をさせていただき、マンガを作ってきました。
私の知らないことをマンガにするのに、取材は欠かせません。本を読んだだけでは絶対得られないエピソードが聞けるので、私は取材が大好きでした。
しかし…最近はめっきり取材をさせてもらえませんでした。
取材どころか、この数年、コロナのせいもあって、マンガ編集者、インタビュイー、仕事に関わる人と直接会う打ち合わせは皆無で対面での会話自体が、まったく出来なかったのです!
よくてズーム会議。直接会ったこともない人と、メール打ち合わせだけで仕事をしたこともあります。
出版社の編集さんにも、メールだけで営業して、メールだけで断られ、完結してしまった仕事さえありました。とんだ時代になったもんだ。と嘆いても仕事は進まない。
なので、めげずに取材交渉は粘り強く続ける私。
すでに数件、依頼をコロナを理由に断られたけど、取材申し込みに返事すらくれない団体もあったけど、そんな中、「いいよ!」と快諾してくださったのが、フリーライターで、ノンフィクション作家でもある小野一光さんでした。
最近では、ネットニュースやネット記事で、世間を騒がせた殺人事件や、フーゾク関連のライティングで小野さんの記事を目にすることも多いので、ご存じの方もいらっしゃるかと思います。
私と小野さんの出会いは、20年くらい前に、「少女A」とか「わたしのからだ、わたしのねだん」というマンガ作品を描くにあたって、フーゾクや援助交際(当時はこう呼んでた。いまならパパ活)にお詳しい小野さんに取材をしたのが最初で、その当時は「なんでも知ってて、話がものすごく面白いおじさんだなあ~」という印象でした。
その当時の取材はとても楽しくて、非常に参考になりました。私の漫画は、おかげさまでとても濃い内容のものに仕上がりました。満足しています。
ただそれっきり、小野さんとお会いする機会もなく年月は過ぎていきました。
私はその間も、小野さんの著書などをいくつか読んで、「お元気そうだ、著作も大変面白いし興味深い。いつかまたお話したい」ともくろんでいたのでありました。
とくにここ数年は、日本中を騒がせた犯罪事件につよく惹かれ、調べたり考察するのが趣味みたいにもなっていたので、まさに、多くの犯罪者を長年取材され、対峙されてきた小野さんの著書が心に響いていました。
「家族喰い」「連続殺人犯」「人殺しの論理」すべて読みごたえがあり、重厚な内容です。
なので、小野さんには聞いてみたいことが山積みで、私はまるで長年会っていなかった恋人に会えるかのようなウキウキした気持ちで、取材の約束の日までドキドキ過ごしておりました。
↑小野さんの著作の一部
駅前の昔ながらの喫茶店に、待ち合わせをして、そのままお話を伺いました。
「本日はありがとうございます!お元気でいらっしゃいましたか?」
「今は元気になりましたが、昨年病気をして、入院手術を経験しました。5か月前も、東北に取材中に具合が悪くなり、地元の病院に救急搬送され、入院と検査の日々でした。」
小野さんはもともと呼吸器に持病があり、コロナに感染すると危ない、と医者から言われているそうで、さらに昨年それとは別の新たな内臓の病気も見つかったそうです。
そちらは完治されたようで幸いです。
「コロナ禍に見舞われた世の中になっても、手術を要する病が発覚しても、基本的には大きな心の変化や価値観が変わったりすることはないですね、ぼくは運命論者なので、死ぬときは死ぬし、助かるときは助かる、とどっしり構えています。」と小野さん。
とくに、日本中がコロナで閉塞していても、今までの仕事のやり方やスタンスは変わらなかったそうです。特に不自由も感じていないとか。スゴイ!
私は、取材しにくい、編集さんやスタッフさんと会えない、とフラストレーションMAXだったというのに!
「コロナ禍が2年以上続き、世の中の価値観が大きく変化したと思いますが、ワクチンがいきわたり、今後世界は2年前までの同じ環境に、また戻ると思いますか?」と聞いてみた。
「今回のパンデミックは、まさに分断の時代だと思います。世界の価値観を大きく分断した。」
都市部と地方、ワクチンを打つ派とワクチン反対派、テレワーク推奨派と保守派、時代の変化についていき柔軟に対応できる側とそうでない派、などなど。たしかに、飲食店やライブハウス、コロナが起こって株価が上昇した企業と廃業に追いやられた職種…
まさに世の中の人間の考え方や生活スタイルは、大きく分断されてしまったと納得できました。
小野さんは言います。
「ただアフターコロナといっても、今までの生活スタイルや価値観を大きく変える必要はないんじゃないか。それによるストレスで、人生が損なわれることは避けるべきだと僕は思います。」
なるほど、参考になります。
ムリして時代の流れについていこうとせず、自分は自分、なるようになる、というどっしりした気持ちでいると、不安も和らぎそうですね。
世間話はこの辺にして、本格的に小野さんの「フリーライター、ノンフィクションライター」というお仕事について聞いていくことにします。
「小野さんの著書といえば、連続殺人犯や死刑囚との対話、風俗嬢といったタイトルがずらっと並び、世間を騒がせた凶悪犯罪などを多く取材されていますが、もともとそういう「凶悪犯罪」などに強く惹かれ、専門カテゴリーのライターさんになられたのですか?」
「違います。フリーライターという職業には2種類あり、グルメ、スポーツ、音楽ととにかくジャンル問わずなんでも取材して仕事をこなすなんでも屋ライターと、ぼくのように専門分野を多く請け負うタイプの専門性のあるライターがいます。僕は、フリーライターなので、クライアントから依頼が来た仕事をこなしていくうちに、犯罪や風俗といったテーマの仕事が評価され、自然とそれらの依頼が多くなっていきました。」
「そうなんですね!ではご自身が惹かれて、この事件を連載記事にしたいと提案していくのではなく、オファーが来て、それを取材していく、というスタイルの中で、専門性が出来上がっていったということですね。もうかなり長いことご活躍されていますけど、このお仕事を天職だと思われますか?」
「天職、とまではいかないかもしれないが、自然とそうなっていったという感じです。ライターさんには取材が好きで続けているタイプと、取材を原稿に書くのが好きなタイプがいると思うんですけど、自分は原稿書くのが好きですね。ほかの犯罪系ライターと比較して強みがあるとしたら、自分はそこかなと。」
なるほど、われわれ漫画家にも当てはめるとすれば、私は原稿を描くよりも、こういった取材をしてストーリーを作るほうが好きなので、小野さんとは違って前者の方かもしれないなと思いました。
さて、世の中のヒット作コンテンツの多くで、実在の事件や犯罪者をモデルにしている場合が多いですが、実際に実物の犯罪者(死刑囚)と直に対面し、取材をされてきた小野さんからしたら、そういった「事件のエンターテイメント化」をどう感じておられるのでしょうか?
どうしても、聞きたくて聞いてみたいと思いました。
私は一読者・ファンとして、「闇金ウシジマくん」や、小林勇貴監督の映画「全員死刑」などが大好きなのです。
ウシジマくんには2002年の北九州で起きた松永太死刑囚の起こした監禁殺人事件がモデルにされていたり、「全員死刑」には大牟田4人殺害事件を起こした死刑囚一家、北村ファミリーを題材にしています。
他にも「冷たい熱帯魚」という映画は、埼玉の愛犬家殺人事件をモチーフにした壮大なクライムサスペンス作品として評価が高いもので、エンタメ作品としてはとても面白いです。
小野さんは全国の拘置所に足しげく面会に通い、彼ら死刑囚にち密なインタビューを試み、犯罪の真相に迫るスリリングな著作を発表されています。文字に起こせず公表できないような交流もあったと思います。
そんな「裏事情まで知り尽くし、本人をリアルに知っている」小野さんは、事件を面白おかしく脚色されたり美化されてしまっている殺人犯のコンテンツをどうとらえているのでしょうか?
後半へ続く
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